◇NPO法人「共に生きる国際交流と福祉の家」での講演D◇

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 次に韓国人の「恨(ハン)」ですね。日本の方はみんな「恨み」と言います。私は1995年に『恨』という本を出したんです。そしたら同級生が言いました。

「お前、日本人に文句があるのか。日本人に恨みを抱いて思ってこれまでつきあってきたのか」と抗議しました。それは「恨」という言葉を、日本の人は日本語の「恨み」として受け取ったからでしょう。

日本の言葉で言えば「恨み」ですが、韓国流で言えば、韓国人の情で言えば、これは「ハン」と言いまして、「恨み」じゃありません。どうぞ誤解なさらないように。

韓国人の「恨(ハン)」という感情はどういうことなのか。骨、髄、歯茎・・・まで染みこんでいる感情ですよ。これは非常に抽象的ですね。

もっとわかりやすく言いますね。歴史的な不運や災難、人間の意志では思うようにならない運命に振り回され、力が及ばない感情です。思い出すことよりも、常にこびりついている感情です。

それから戦争や歴史の過去にいかにとらわれているかということ。こういうことが染みこんでいる、こびりついている。骨、髄、茎まで染みこんでいると・・・、そういう感情です。それじゃこういう感情というのは朝鮮人だけかというと、そうじゃありませんよ。

日本の皆さんにだってあります。年配の方たち、戦前苦労し戦争経験をしたり、虐げられた方たちの、日本の先輩たちのお話を聞くと、全くこの感情ですよ。だからこの「恨(ハン)」の感情というのは、決して韓国人だけではない、朝鮮人だけではないということ。心の中にも、皆さんの歴史の中にもある感情であるということを、ここで理解してもらいたいと思います。

 最近、中曽根さんがどこかのシンポジウムでお話しましたね。そこでのお話なさったことを聞くと、「20世紀は本当に戦争ばっかりやってきた」と。歴史的にそうですよね。日本は太平洋戦争で300万人以上亡くなり戦争の犠牲になった。

しかし韓国人も200万は亡くなってるんですよ。朝鮮戦争もそうだし、戦争のために多大な人が犠牲になったわけだけれども、日本はたくさん戦争したんですよね。ロシアとも戦争したし、中国とも戦争したし、そして太平洋戦争で米、英とも。

日本国民は多大な犠牲を払ったんです。それで中曽根さんが言ったのは、「もう戦争はしてはならない。」という・・・当たり前ですよね。「これからは日本は何を求めるか。平和を求める」、これも当たり前ですよね。世界中の願いです。

その次に言った言葉は何かというと、「歴史認識をはっきりちゃんとして、歴史性というものを大事にして、日本の文化の良いところを世界にアピールしていかなくちゃならない」、そういうふうにお話をなさったんです。全く私も同感ですし、韓国の人にも言えることです。

ただこの歴史認識の問題で、今一番私がいつも心配していることは、総理大臣の小泉さんですね・・・靖国神社、それから教科書の問題、この問題が起きると、堂々巡りをしているわけですよね。まだ是正されたわけじゃないでしょ。

教科書も来年は改定の年ですよね。一昨年、扶桑から出た教科書を採用したのは全国で2校ですか。今年1校採用したみたいですから3校になりました。パーセンテージからすれば、0・03%か0・04%ぐらいの採用率です。微々たるものだと言いますけれども、まだ教科書の中でちゃんと歴史認識のとらえ方というのが、整理ができてないんですね。

だから韓国からも苦情が出るし、中国からも特に靖国の問題なんかをめぐっては完全に猛反発してます。先ほど中曽根さんの話をしましたけれども、歴史性の問題が問われる。平和をこれから培っていくには、この歴史の問題がやっぱり日本の問題となる。そういう意味で教科書の問題は、日本の皆さんの良識というか見識が問われる。歴史の過ち、負の部分というものをしっかりと学ぶ必要がある、学ばなきゃならないということを言いたい。どうしてかというと、知らない、無知ということは、日本に展望がないんですよ。前がひらけてこないんです。

 その例を1つ挙げたいと思います。秋田県田沢湖町を先ほど紹介しました。田沢湖をダムにして国策で発電所が建設され、戦前に強制連行で朝鮮人がたくさん動員されて来ました。特に秋田県は多かったんですよ。鉱山がありましたから。その田沢湖畔に私が生まれた1939年、姫観音像が建立されたのです。
 私はその観音様を、建立された時の建立書を捜し出したんです。田沢湖にクニマスという魚がいたんです。このクニマスが、田沢湖をダムとするために、外部の玉川という川からラジウム温泉の放射能の入っている酸性の水を、田沢湖に入れたんです。

ダムを作るために、発電所を作るために。その毒水が入ったために、クニマスが全滅しちゃったんです。田沢湖には古来から、伝説ですが、田沢湖を守る神様がいる。辰子さんという方がいらっしゃった。絶世の美人で、私はこんなにきれいだから、死なないで美人のままで、乙女のままで生きたいということを観音様にお参りしたら、神様が「お前は竜になって田沢湖の主になれ」と言って・・・、田沢湖の主になった辰子姫伝説というのがあるんです。

この辰子様とクニマスの霊を守るために、姫観音を建立したということを、1979年に町当局が田沢湖畔に掲示板を建てたんです。私は異を唱えました。これは戦前、国策として生保内発電所を作る時に、動員されてきた朝鮮の人たちの犠牲者の慰霊碑ではないのかと。田沢湖町では、そういう事実は一切ありませんと、見ざる聞かざる言わざる・・・。

町当局や町民達がそうでした。建立書を捜し出すまでに約10数年かかりました、それを明かすために。僕が言った通りでした。そこで亡くなった方たちを慰霊するために建立したんです。それくらい日本の地域社会では、歴史認識が無知であるというか・・・。

決して無知だからそうしたのじゃないんです。敗戦を通して日本の教科書問題に出てくる「自虐的」な感情から、それを言いたくないと、知っても知らないふりをする。そういう考えだから教科書でも教えない。別に歴史の事実を知るということは、自虐的になるということじゃないということを言いたいですね。

過去をお互いきちんと知ることの上に、日本の将来があるし未来がある、展望をひらく、希望をひらく、私はそういうふうに、田沢湖の例をとって訴えました。まだ田沢湖の方々の意識は100%そこまで到達しておりません。

考えます。私が生きている間に、田沢湖の人たちは認識が改まるのだろうかと。今「田沢湖の人達」って言いましたけども、「日本の方は」「日本国は」と言い換えたいところです。僕が死ぬまでに認識するのか、疑問ですね。

それぐらい歴史認識に対して都合の悪いことは知らんぷりするというのは。人の尊厳を傷つけた歴史というものを田沢湖では、何も朝鮮の人たちだけが犠牲になったんじゃなかったんです。日本人も亡くなってるんですよ。自分たちの同族に対してもそういう仕打ちをするということは、許されることじゃないと思いますよ。歴史を隠すことによって、自分たちの同族、国民を、自分たちの住民までも寂しい思いをさせる。悲しい思いをさせているという事実ですね。だから歴史を知るということ、過去にあったことを明らかにし、反省することに、救われる道が僕はあると思いますね。

 別の例を挙げます。光州のこと。韓国の光州事件のあった場所ですね。光州では、2年に1回ずつ国際美術展「光州ビエンナーレ」というのを開いております。

今年が第5回目で、今日最終日を迎えます。この第3回2000年光州ビエンナーレの時、日本のアーティストで宮島達男という方が、六本木ヒルズに朝日テレビがありますね、朝日テレビの入口の道路の壁面に、数字がパッパッと消えて数字をカウントしている画面を見たことがないでしょうか。

今度六本木ヒルズへ行ったら、朝日テレビ脇の道路から見て下さい。ものすごい大きな作品です。それを作られた方、1999年にベネツィア・ビエンナーレで大賞を取った・・・世界一になった方です。

この方が、長崎の爆心地で原爆のために全ての生物が死滅したけれど、唯一柿の木が1本生きていて、実がなった。原爆の犠牲になった生物、柿の木が生命を復活した姿を世界の子どもたちに学習のために柿の木の苗を世界に植えよう。日本の原爆の被害の恐ろしさ、原爆に対する反省ですね、未来の子どもたちに対し、平和国家を作っていかなくてはならないというメッセージとして。

核兵器の恐ろしさを訴えるために、柿の木プロジェクトを作って、柿の木を植える運動を世界国中に始めたのです。それで私は光州ビエンナーレの時に、この柿の木を植える運動をすることにしたんです。光州の人たちは、猛反対しました。

「何でそんな原爆の木を・・・」。また日本側では、作家の宮島さん自身が、韓国で植えたところで引っこ抜かれるか、もぎ取られるか、韓国の人にかえって反感を買って、えらい目に遭うから、まだ時期尚早だからやめましょうと言って反対しました。

私は説得しました。光州の人にも、宮島さんにも。そして植えました。植えた途端、案の定、みんなが心配した通り、引っこ抜かれて柿の木がなくなってしまった。しょうがないので私はまた持って行き、植えました。そしたら誰かがまた切って駄目にしてしまいました。しょうがないので翌年、再度持って行って植えました。今度は山の中へ秘密のところへ隠して植えてきました。

今秘密の場所で大きく育ってます。その木をいつか、もと植えた場所へ植えて、その柿の木からなる実を子どもたちと一緒にもいで食べ、そして平和の尊さと核兵器の恐ろしさ、唯一日本国民が核兵器の悲惨さを訴える、学習の材料として、成長させたいと思っています。

何故こんな話をしたかというと、韓国の人も日本のことに理解がありません。感情だけで、過去の歴史のことだけで反対したり、そして切って殺してしまう。植物に何の罪がありますか。実を取って食べたらおいしいに決まってるだけであって・・・。歴史認識については韓国の人も学ばなければなりません。日本の国民そのものもどれほど犠牲があったかということを・・・、戦争の犠牲というのは日本人や韓国人だとか差別ありませんからね。原爆の時、韓国人も広島で2万人以上も死んだわけですから、死ぬときは一緒ですから。

Eにつづく

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