◇酔客のカラオケ騒動◇
茶会開催にあたり、私は組織委員会を訪問し挨拶まわりをした。ところが、会う委員ごと、私への対応がいやによそよそしくそっけない。とげとげしい雰囲気さえ感じたが、私に関わることではないと気にも止めなかった。しかし、二、三時間たって、ある委員が憮然たる表情で、不快な感情もあらわに、「河正雄氏、昨夜、野外公演場で開いた日本人のカラオケチームと一緒にいなかったか。彼らの公演を企画して引率してきたのは、君なのか?」と、語気を強めて私をにらみつけた。 「私は茶会を企画して茶道の方々を案内してきただけで、カラオケの人たちとは何の関わりもないが、何かあったのですか。」 「実は、昨夜カラオケで韓国歌謡をうたう日本人の記念行事が開かれたが、酒に酔って舞台に上がったことが物議をかもし問題となった。神聖なビエンナーレの公演場を汚し、自尊心を傷つけられた思いである。」というのだ。 「河正雄氏、もう一つ聞くが、今回の茶会のことであるが、君は組織委員会では何も知らされていないことを独断で勝手に、組織委員会を無視して実行しようとしているが、いくら良いことをやるにも程がある。君の人格を疑い、組織委員会では失礼もはなはだしいと怒っているのだ。」これには驚いてしまった。寝耳に水とは、こんなことがらを言うのであろうか。私は、あいた口がふさがらなかった。 「私は、三ヵ月前、組織委員会に伺いをたてました。その時コミッショナーと打合せて推進するよう返事を頂いた。その後、数回にわたり、コミッショナーと禹さんとの連絡を取り合い、準備をかさね引率してきたのに、何の話なのか私には理解出来ません。」 今度は私が頭に血が昇ってきた。理由は簡単である。コミッショナーと組織委員会との意志疎通が何もなかったのである。組織委員会も私同様に被害者であったのだ。エライことになっていたものであった。完全に誤解され悪者になっていたのであるが、すべて氷解したのであるから話は早い。 「我々側に日本と日本人に関わることはなんでも河さんに結びつける先入観があったことが間違いのもとであった。」と修正されたが、私はこの件で考えさせられる点が多くあった。私は在日韓国人なのだ、ということをあらためて強く意識させられた。私は緊張をもって身を引き締め、境界を一つ越えた。 |