◇芸術は国を作り、人を作る◇

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八〇年五月一八日の錦南路を思うと、この夜の映像が真か偽か私は何度もこの目を疑い、ぬぐい去っても幾度も幾度もモノクロの映像があらわれては消えた。
 市民・民衆は、この国のことあるごとに、この錦南路に集まり、民主のための要求と抗議をしたことはあまりにも記憶に生々しく、世界の人々のシンボリックで神聖なる広場なのである。
 翌二〇日は開会式。うるわしき韓国の澄む、朝鮮やかな国のそれはそれは澄んだ光がよろこびの豊穣を祝うかのような開会式であった。
「芸術、美術は国を作る、人を作る」と市長は開会のことばで述べた。アンドレ・マルローは「国家は芸術に奉仕せよ」と言った。この精神、この認識こそが、世界化、一流と称する文化国としての未来を約束し、ビエンナーレを開く大きな意味がここにあると背を正した。

夕刻、母から国際電話がかかったことを妻から伝えられた。
「アボジ! 赤ちゃんが生まれましたよ。」長男智樹の初孫誕生である。
「今日からはあなた、おじいちゃんよ。」
「あなたこそ、おばあちゃんだね。」
ほんとのこといって、僕は出来ることならおじいちゃんはイヤだけれど、そんなわがままは許してくれないのが世の習わし。
「名前は、智樹の智をとって、智香ちゃんと決めたの。女の子らしくていいでしょう。」
制作担当者の決めたこと、これも本当のこといって、光州ビエンナーレの開会式の日に生まれたのだから、「ビエンナーレ」とつけたかったなあ・・・とひとりごと。ともかく、好い日に生まれたなあ・・・。智香ちゃん。智樹・正美、おめでとう。