◇テーマ「境界を越えて」◇

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重要な「テーマ」であるが、韓国が抱える、また光州市が抱えた今世紀の数々の受難を救世する意味深のテーマともとられるのは、私の思いすごしでうがった見方であろうか。今我々が克服せねばならない民族的宿命ともいえるようだ。
「境界を越えて≠フスローガンの下、光州ビエンナーレは、世界市民が伝統と習慣の異質性を妥協させることなく、複雑な政治的、人間的、そして美術的境界を、いかに乗り越えられるかを模索する。それはまた、近代技術と科学の関係における、アートの未来を試すことにもなるであろう。韓国はおそらく最後の政治的に分断された国家であろう。しかし世界のほとんどの地域には、いまだに政治的、宗教的、そして人種的対立が残っている。ビエンナーレは、アートが分断と紛争の世界における調和と癒しの声≠ニなれるということを追求する。」
「美術イベントは、国際現代美術展、国際特別展、記念展、後援展からなり六〇カ国、五〇〇余人の作家が参加する。国際現代美術展は、新作制作の原則の下、五〇カ国、九二人が今世紀の芸術の真髄を見せる。国際特別展は、証人としての芸術%W、光州五月精神%W、情報と芸術(インフォアート)%W、韓国近代美術のなかの韓国性%W、韓国現代美術の今日%W、文人画と東洋精神%Wが企画されている。記念展としては、地域作家招待%W、韓国近代絵画の名品%W、世界美術衣装%Wが開かれる。祝賀行事は、三〇カ国から数千名が参加して世界各国の固有の芸術を披露する。
特に、一九八〇年、歴史の激動期に光州が経験した状況を、光州五月精神%Wとして編み、芸術の歴史意識を全世界の人々にアピールする。」



昨年九月中旬この計画が発案されて、中央庁と協議後、十二月六日設立準備委員会が開かれ、十三日、光州ビエンナーレ組織委員会創立総会で決定され、本格的に推進されることとなった。今年三月二九日には財団法人「光州ビエンナーレ」が設立され、継続的開催の基盤を作り、五月二日に各界各層の市民代表で汎市民推進協議会を構成した。
第一回光州ビエンナーレの事業費は、総額一八二億ウオン。その内、中央支援四〇億ウオン、市補助費七七億ウオン、施設協賛ニ〇億ウオン、事業収益四五億ウオン、その内七七億ウオンは行事準備費、残り一〇五億ウオンは展示館新築等に支出する計画。
ベネチアビエンナーレの内幕に触れれば、運営は半官半民の独立した法人が主管し、今年の予算は一二〇億ウオン(五億円)で、九割り以上が国の出資である。ちなみに韓国は、八六年から参加、今年日本館のとなりにアジアでは日本に継いで二番目の独立したパびリオンを設けている。
美術は民族や国家を超えた普遍性をもちうるものであるが、国と民族の特殊性をせめあう政治の場に感じる最近の風潮。低調・停滞の感じ、対立や矛盾がからみあう迷路を抜け出せないでいるのを見るにつけ、一抹の不安と危惧を感じたのも正直なところ。
発案・決定・構成され、具体的なビエンナーレ像が策定されるまでの火急なること。そこへ、六月には光復初の民選光州市長選挙とのこと。当選された宋彦鍾市長が、戸惑いを隠さず、青島東京都知事を見習って返上論まで飛び出す始末である。

 初経験である官主導の体制が本腰を上げるまでには、ここでは語れぬ程の産みの苦しみ、試行錯誤があったのである。水をさすのではない。まさしく「多事多難を乗り超えて」がもう一つの光州ビエンナーレのスローガンでもあるのだ。

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